現在進行形で子どもを持つことに挑戦しているLGBTに聞く。  <前編>

2011.1.16


今回は、現在進行形で「子づくり」に挑戦しているレズビアン女性

Bさん(仮名・38歳)にインタビュー。

 

「子づくり」と言っても、じっさいに性交渉をしているというわけでは

ありません。
女性パートナーとの関係を基盤に、ゲイである子父さん(精子提供者)の

協力を得て、 3人プラス子どもの「家族」を目指して、

チャレンジしています。
Bさんに、子どもを持つことを決意した経緯や、いまの想い、

そして、ずばり「子づくり」の方法などを伺いました。

 

新春特大のロングインタビューなので2回に分けてお届けします。

前編は、Bさんがなぜ子どもを考えるようになったのか?

彼女がレズビアンとして、どう生きてきたか

そして、パートナーさん、子父さんとの関係について、です。

 


●海外ではゲイファーザーが次々と誕生して話題になっていますが

(年末にはエルトンジョンも代理母でパパになりましたね!)、

日本では今、レズビアン女性たちによる”子づくり”がひそかに増加中のようですね。

Bさんの周りにも、お子さんを出産されたレズビアンカップルはおられますか?

  

そうですね、知り合いに何組か、実際にお子さんを出産され、育てているレズビアンカップルがいます。

それに、いま、いろいろな方法で子づくりに挑戦中のレズビアン女性も、複数知っています。


私は、ミクシィ上で「子どもが欲しいゲイ・ビアン」というコミュニティの管理人をやっているんですね。

昨年、一度、ミクシィ事務局から予告なしにコミュニティ削除を受けたので、いまは参加者が減っていますが、

その前には1000人を超える参加者がいましたよ。まあ、実際に子づくりをしている人は、その中でも、

ごく一部だと思いますが、「興味がある」とか「いずれは……」という人は、あんがい多いんでしょうね。

 

●Bさんは今まさに子どもをもつことに挑戦中ですが、Bさんが最初に子どもをもとうと思ったのは、

いつごろからなのですか?


そうですね・・・、考えてみると、私にとって子どもを持つことと、自分がレズビアンであるということは、

最初から矛盾することなく、自然なことだった気がします。

そういう意味では、最初から、子どものいる人生が送りたいと思っていたかもしれません。

 

●じゃあ、セクシャリティを自覚したのは?

  

自分のセクシュアリティを自覚したのは中学生のとき。好きな人ができて、告白して、その人と両想いに

なって、それではっきりと自覚しました。
自覚したときはうれしかったですよ。「私は男を好きにならなくていいんだ!」って(笑)。
それまで、ヘテロ以外の生き方を知らなかったので、すごく憂鬱だったんですよね。「いつか、オトコって

やつと恋愛するのかー。そんな気になる日がくるとは思えない……女の子といたほうがずっと楽しいのに」

って(笑)。もともと、親がガチのフェミニストだったので、この世のヘテロセクシズムってやつに、すごく

懐疑的な子どもだったんです。だから、それに乗らなくてすむんだと思ったら、本当に目からウロコが

落ちるような気分で、バンザーイ!って感じでした。


●Bさんらしいポジティブなエピソードですね(笑)。セクシャリティを自覚しても子どもを

諦めることはなかった?

 

 

中学時代、なぜか部活で生物部に入っていて(笑)、夏休みの研究で、ウニの受精なんかをやっていたんです。

ウニのオスとメスを割って、精子と卵子をシャーレで混ぜてね、卵子が分割していくのを、ずっと観察するわけ。

そのせいか分からないけれど、「セックスしなきゃ子どもは産まれないもの」という先入観が、ハナから

なかったのかもしれませんね。
もちろん、当時は、まだ中学生だったから、はっきりと「いつか子どもをつくるぜ!」と思っていたわけでは

ないけれど、「レズビアンだから子どもがもてない」とも思っていなかったんです。

 


●その後の流れも聞かせてください。

 

中高時代は、寛容な雰囲気の女子校だったので、校内で自分のセクシュアリティを隠すことなく育ちました。

その後、大学に進学してから、本格的に2丁目とかに顔を出すようになって。二十歳くらいのころだったかな、

当時のゲイの友人から「B、ぼくの子ども産まない?結婚はしたくないけど、子どもはほしいのよ」って

言われたことがあったんです。そのときは、まだ若いから「えーっ、ムリだよ!」と断ったんですけど。

でも、その出来事がずっと心に残っていて、「ゲイと協力して子どもをもつっていうのも、アリだな」と。


●具体的に子どもを持とう、と思ったのは何歳くらい?

 

リアルに考えはじめたのは、30歳を過ぎたころだったかな。20代後半で今のパートナーと出会い、

いっしょに暮らしはじめて、「この人と一生いっしょにいるかも」と思えるようになったとき、「この人となら、

子どもを育てたいかも」と心が決まった気がします。

 

それでやっと、「子どもを持てるように、がんばってみようかな」と思えたんですね。
それから、一念発起して、正社員登用試験にチャレンジして、数年後に合格しました。

経済的基盤を得たことで、「子どもを持つ」ということが「夢」から「具体的な話」へ変化しましたね。

そのときには、33歳になってました。


法律の後ろ盾のあるヘテロセクシャルの夫婦と違って、レズビアンが子どもを持とうと思ったら、

経済的基盤がまずは必要だと思うんです。もちろん、カップルの産まないほうがバリバリ働いて養うって

いうのもアリかもしれないけど、私の知り合いには、子どもができてから別れちゃったっていう

レズビアンカップルもいて……。

 

産んだ側は、恋愛の終わり即シングルマザー、しかも1人で小さい子を子育てするんですよ。

不可能だとは思わないけど、すごく怖いでしょう!?
まあ、単に私が怖がりなだけかもしれませんけど(笑)。仕事がしっかりできるようになり、

社会人としての自分を確立して、ようやく子どもという選択肢が考えられるようになる……と

私は自然に思っていましたね。

 


パートナーさん・子父さんのこと

 

●パートナーさんはお子さんについてどう思っているのですか?

 

パートナーは、「自分は産みたくない」って言っています。「自分の遺伝子を残すことには興味ない」って。

だけど、「自分のミーム(価値観や考え方など、心の遺伝子とも言われるもの)は継がせたい」んですって。

だから、恋人が生んでくれたら、お腹をいためずに夢がかなう、と喜んでるみたいですよ。
私としても、パートナーの自己肯定的で楽しい性格がとても好きなので、彼女といっしょに育てられたら、

きっとポジティブな子になるだろうなと思っています。


●最初からあまり反対もせず?

 

私が最初に、「子どもが産みたいと思ってるんだけど……」とおずおずときりだしたときも、「うん、いいよ!」と、

あっけにとられるくらい快諾でしたね(笑)。

ま、そのときはまだ、なにも考えてなかっただけかもしれないですけど(笑)。


●パートナーがなかなか乗り気になってくれなくて・・・という話もよく聞くだけに、

それは素晴らしいですねえ。

 

では、子父さんは、お子さんについてどう思っているのですか?

 

彼はクローゼットとして生活しているけれど、基本的に、ゲイである自分を大切にしている人です。

子どもが欲しいと思うゲイの多くは友情結婚(ゲイとレズビアンが、おたがいのセクシュアリティを認めあって、

協力して結婚している状態をつくること。社会的にはヘテロセクシャルとして生きていくケースが多い)を

望むことが多い中、彼はあくまでゲイとして生きるつもりで、一時は北米のゲイのように、代理母を雇って

産んでもらい、自分で育てたいとまで考えていたようです。

 

●子父さんとはどこで知り合ったのですか?

 

友情結婚サイトに、私が投稿した記事を読んで、彼がメールをくれたのがきっかけです。時期としては、

正社員登用試験に受かる直前くらいだったかな。
友情結婚サイトだったのに、「結婚せずに子どもが欲しいレズビアンカップルです」と書いたのですが、

何人か連絡をくれましたね。当初は、それで何人かの子父さん候補に、並行して会っていました。


正直な話、条件だけで言うと、いまの子父さんよりも条件のいい人もいたんですよ。たとえば、先方も

同居しているカップルで、両方の両親にカムアウト済だとか。いろいろ、問題が少なそうでしょう。

だけど、ピンときたのが、今の子父さんだったんですよね。


●子父さんを彼にすると決めるまでに、どのくらいの年月がかかりましたか?

 

具体的に子父候補さんを探しはじめてから、半年くらいだったと思います。「いつか、子どもをつくるなら、

この人とがいいな」と思って、それ以外の子父さんとは会わなくなっていきました。

それから、実際に子づくりに踏み出すのに、さらに2年くらいかかりましたけど。


●なぜ今の子父さんに決めたのですか?

 

一言で言うなら「コミュニケーション能力がある」ということです。私は当初、子父さんには、精子提供者に

なってもらうだけのつもりだったんです。でも、彼と知り合っていくにつれて、彼自身も「できれば、子どもに

かかわりたい」と言ってくれるようになったし、私も「子どもの父親として会ってほしいな」と思うようになって。


つまりそれは、セックスや婚姻はしないけれど、「家族になる」ということでしょう? だとすれば、他人が

「恋愛」なく繋がるためには、どれだけ話し合い、必要があれば、ぶつかることができるかという

「ケンカ力(りょく)」が大事だと思ったんです。私も相方も、会話によるコミュニケーションをかなり重視

するほうなので、これはとても重要でした。

 

●子どもをつくろうと決めた過程で、もめたことはありましたか?

35歳になった直後に、「年齢的に、もうこれ以上ひきのばせないから、子づくりを始めたい」とパートナーと

子父さんに言いました。そうしたら、2人とも同意してくれて。
当初は、やっと夢見ていたことがはじまるんだと、すごくハッピーな気分になりました。けど、その直後、

いきなりもめました(笑)。


彼が、「子どもが生まれたら、両親に孫を見せたい。その場合、いっしょに親もとに行ってくれないか」と

言ったんですね。でも、「どうやって私のことを両親に説明するつもりなの?」と。そうしたら「たとえば、

以前はつきあっていたんだけど、恋愛関係が終わった。いまは友人どうしとして、子どもの父親と母親に

なろうということになった」と言いたいと。「もしくは、一時的に結婚して、別れたことにしても……」とまで。


でもパートナーは、一瞬でも私と子父が結婚することには大・大・大反対でした。

子どもを介して父母になる私と子父は、それだけでも充分結びつくことになるのに、一方、パートナーは、

私とも、子どもとも、法的なつながりは皆無です。なんの保障もなく、精神的にも立場的にも、子父と比較して、

圧倒的な弱者になってしまうんです。そのせいか、彼女にしてはめずらしく、少し感情的になっていました。


それで、彼もふくめて何度か話し合いを持って、最終的に彼が「このプロジェクトは、Bとパートナーの

関係ありきのこと。2人がうまくいかなくなったり、別れたりするのは、間違ってる。だから、自分がゆずる」と

引いてくれました。その引き際が、見事だったんです。
その後も、いろいろ行き違いが出てきたけれど、そのたびに話し合い、ぶつかっても問題を解決できて

いることが、彼と子づくりしている理由ですね。


●ほかに子どもを持つにあたり、したことは何かありますか?

母にカミングアウトをして、「子どもをつくるよ!」と宣言したことです。母、私、パートナー、子父で食事会を

開き、さらにこのメンバーで旅行にまで行きました(笑)。母は、私のセクシュアリティについては

ブツブツ言いましたが、子どもを持つことには賛成してくれました。
いまでは、私と母のケンカの仲裁を、パートナーがしてくれたりしてます(笑)。


後編へつづく>