■僕らを父親にー嫡出子問題で裁判中のGIDの父、前田さんにインタビュー


GIDである前田さんが、第三者間精子提供で父になったものの
その子どもが嫡出子として認められず、訴訟を起こされている件については
たびたび当サイトでも触れてきました
しかし、この話は、当事者でもなかなか理解が難しい。
前田さんのインタビューの前に、再度この問題をおさらいしましょう。


現在日本には、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」というものがあり、
wikiにも出ていました。参考までに)

 

●性別に違和感があり
●身体的、社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者で
●かつ、2人以上の専門医の診断が一致した場合
GIDであるとされ、

さらに
●二十歳以上で、
●婚姻しておらず
●未成年の子がおらず
●生殖機能がなく
●他の性別の性器に係る部分に近似する外観を備えているもの

という条件を備えた場合に限り、戸籍を変更することができます。
戸籍を変更したGIDの方の場合、異性同士として婚姻なども可能になります。

 

さて、その一方で。
現在の日本では、現在日本には法律婚の男女の間で行われた非配偶者間人工授精(AID)
で生まれた子に対しては、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」(民法722条)という法律により夫の嫡出子(婚姻関係にある男女間に生まれた子)として認められています。


しかし、前田さんはGIDで、戸籍に性別の変更の事実が記載されており、AIDをしたことがわかるため認められていません。でも、生来の男女の夫婦は、AIDをしたことがわからないため、子どもは嫡出子として認められており、差別が生じているます。


前田さんを父とした第一子の出生届けは不受理、戸籍も作られないままでした。

現在は、前田さんを父と記載せず、妻のみを母とした戸籍が作られてしまったため、戸籍訂正の申立てを行っているのだそう。(第二子も同様)。

 

そんな前田さんに、お話を伺ってきました。

 


●今日はお忙しいなかお時間を頂き、ありがとうございます。

今回は法律的なことではなく、前田さんのプライベートな部分や思いを中心にお伺いしたいと思います。

どうぞよろしくお願いします!

(お子さんをだっこしながら)はい、よろしくお願いします!

 

●今日は奥様は?

今は下の子を寝かしつけていますよ笑。

 

●まだ小さくていらっしゃいますもんね。ではその奥様との出会いなどを伺えますか

妻とは当時の職場の友人を介して知り合いました。友人たちと開いた鍋パーティに妻も来ていて。

当時妻は自分を(生来の)男だと思っていたので、そのときはそのままで。一年後、また鍋パーティをやったときに再会しまして、そのときにカミングアウトをして、つきあうことになりました。

 

●前田さん自身はいつからご自分の性別違和感を自覚されていたのですか?

幼稚園くらいから…ずっと違和感がありました。ずっとボーイッシュだったので、中学に入って制服になり、スカートが苦痛だったり…。高校の時、先生から「身体変えたりするなよ~」なんてジョークを言われたりもしました。

自分は田舎で育ったので情報もなかったし、何も知らなかった。自分のことが分かったのは、ドラマ「金八先生」を見たとき。それまではなんだかわからなかった自分が分かりました。

 

●上戸彩さんが性同一性障害の生徒を演じた、あのドラマですね。あれで自分のことが分かった、という人はとても多いようですね

それで、高校を卒業してから大阪に出まして、カウンセリングを受け、手術を行いました。

 

●その後、すぐ戸籍を変更されたのですか?

戸籍を変更したのは2008年です。それまでは生活上で戸籍を意識することはあまりありませんでしたが、妻と出会い、結婚を決めたとき、戸籍を変更することにしました。

 

●そうだったんですね。親御さんの反応はいかがでしたか?

複雑な思いもあったと思います。でも最終的には元気でいてくれたらいいと思ってくれたようです。

 

●セクシャルマイノリティには子どもを持つこと自体を考えていない人も多いと思うのですが、前田さんはいかがでしたか?

僕は子ども好きで、ずっと子どもが欲しいと思っていました。妻にも結婚する前から、子どもが欲しいと言ってありました。

 

●では結婚してすぐ子どもを持とうと?

いや、一年は二人きりでゆっくりしようって思いました(笑)。それに、妻には好きでない人の精子を身体に入れる抵抗感もあったようです。半年くらい悩んでいましたが、最終的には僕に残りの人生を楽しんでほしいと、OKしてくれました。

 

●すばらしい奥様ですね。それでどうやって?

第三者から精子を提供してもらい、子どもを持ちました。婚姻中のAID(非配偶者間人工授精)でしたから、当然戸籍にも入ると思っていました。それが窓口で断られて。とても驚き、ショックでした。断られるなんて、考えてもいませんでした。

 

●前田さんの以前にも(GIDの方を父としての出生届を)断られていたケースもあったようですが

(※申し立てなどを起こされてはいないが、同様のケースが複数件、既にあった模様)

当時はそんなことがあるのも全く知りませんでした。

 

●今も申し立てなどが行われているということですが、お子さんはそのことを理解されていますか?

今はまだ小さいので、分かってはいないようですが、子どもには(性同一性障害のことや申し立てのことなど)全部話すつもりです。自分のことを隠すつもりもありません。自分は子どもに悪いことはしていません。だから隠す必要はないと思っています。

 

●なるほど!セクシャルマイノリティの家族は、なかなか説明できずに苦しんでいる人も多いようなのですが、このことについては、どう思われますか?

そうですね…それぞれ事情や理由のあることだと思うので、それはそれで尊重されることだと思うんですね。ただ、自分はこうなので、こうしていますが、他の家族を否定なんてできません。いろんな性があり、いろんな家族があり、いろんな考えがあり、いろんな生き方がある。それに僕は思うのですが、家族は法律が決めるものではないと思うんです。ひとりの裁判官がひとつの家族を決めるべきものじゃないように。

 

●それは本当にその通りですね!そんな風に考えておられることが伺えるとは。

それぞれの家族は、それぞれの家族のことですよね。周りから否定されたりするのは違う。子どもがかわいそうなんて意見も聞きますが、それは周りが決めることでもないと思っています。僕は子どもに隠すつもりはありませんが、子どもが将来全部を知って傷ついたときは、全力で受け止め、対応するつもりです。たとえば子どもが将来、家から逃げるようなことがあったら、それを受け止めなければいけないと思っています。だから今、そうならないように、子育てをがんばっています。自分は子育ては二人でするものだと思っているので、家事も妻だけに任せないようにしています。

 

●世の中のお父さんがたに聞いて頂きたいですね(笑)。さて、今後のことなどを伺えますか?

今、僕の子は戸籍上は僕の妻の子、という扱いになっていますが、これを僕と妻の子としてもらえるように戸籍訂正の申し立てをしているところです。8月11日の東京のパレードには、僕らの活動をまとめたチラシや妻の作った絵本、ポストカードなども用意して、ゴミ混沌ストアさんのブースにも置いてもらうことになっています。僕も子どもたちの様子を見ながらですが、駆けつけられるようにしたいと思っています!

 

●楽しみにしています!今日は忙しい中、ありがとうございました!


<お話を伺ってみて>

下の子ちゃんを奥様が寝かしつけている合間に、上の子を膝に乗せながら話をしてくださった前田さん。

子煩悩パパさんの育児をする様子をかいま見ながらのインタビューでは、新聞記事では分からないような

前田さんのお人柄や考え方に触れることができて、とても有意義な時間でした。

特にインタビュー中の「家族は法律が決めるものじゃない」という言葉には、私も大いにうなづくところです。

GIDの父の立場から嫡出子裁判を起こした前田さんは、嫡出子という言葉を超えて、”家族”というものを

見つめている、そんな方でした。